月別アーカイブ: 2000年5月

久里浜だより14

■午前中にNISEの中度知的障害教育研究室長の小塩允護(おじお…)先生の『就労をめぐる課題と対応』という講義がありました。
■小塩先生は今回の知的障害教育コースの研修を担当してくださっています。たいへんユーモアのある方で、実地研修のあとで横浜ベイブリッジに寄るとか、粋なはからいをしていただいています。プリント類もおもしろくていい記念になります。
■テーマは「就労」ですが、進路全般についての講義でした。養護学校の高等部への進学者はどんどん増えているのに高等部卒業生の就職者は減っているというデータに驚きました。就職率ではなくて就職者の実数です。就職すべきかどうか、その判断はそれぞれの価値観によりますが、たくさんの生徒が高等部に進学しているのですからもっと仕事にチャレンジしてもよさそうに思います。そのシステムはどんどん充実してきているので「学校の先生もがんばれ」です。社会性や子どもの得意分野を伸ばす、また、仕事をして報酬があり、そのお金を使う楽しみを知り、そして社会に役立っているんだという充実感を味わう学習を小学校低学年から始めるプログラムが10数年前からアメリカでできていることを知りました。東京都立王子養護学校の高等部卒業生の就職率は60%で、平均が10数%ですから抜群の就職率です。王子養護学校はそれだけの進路学習をきちんとしているとのことです。知的障害教育コースの講義なのでそちらにシフトした内容でしたが、障害がある人たちの就労の厳しさをあらためて知ると同時に、どんどん変わりつつある社会の受け皿システムについて自分がいかに知らなかったかということを反省しています。
■それにしても今日も英語がたくさんたくさん出てきました。OHPの資料もアメリカのもので英語! がんばれニッポン!
■午後は研究協議の3回目でした。音楽・美術・体育という3教科の“先生”が集まってあーでもないこーでもないと1時間も延長して話し合いました。どーなるかな。
■話題がかわります。
■夜、みんなとお酒を飲んだりしていていいなぁと思うことの1つにいろんな方言が聞けることがあります。これはテレビドラマで俳優が勉強して喋る方言ではありません。今その地方で使われている生きた言葉です。方言とはこんなものだったのかと、そうですね、大学の時以来でしょうか、こんな出会いは。話をしていても方言だとその人の言葉、という感じです。方言で話しかけられたらウソでも信じてしまいそうです。沖縄から来ている人は、勤務校の校長先生から「くれぐれも標準語で話をするように」と言われてきたとか。たしかに方言だとさっぱりわからなかったです。
■石垣島から来ている人は石垣島の祝歌などをきかせてくれました。これもすてきでした。沖縄のメロディーとも似ているのかな。強い日差し、青い空と青い海、白い砂、生い茂る亜熱帯の木々や色鮮やかな花、そして暖かい風。「南の風」というイメージが好きな私にとってはうっとりするような歌でした。私の「こだわり」からすると、親子3代が集まっていっしょに歌える(ときには踊れる)歌がそうしてきちんとあることがすばらしい。その人はわらべ歌やリトミック、音楽療法も研修の対象にしています。
■明日は朝7時集合で弘済学園に実地研修に行きます。小塩先生の話だと弘済学園の実地研修は毎年雨だとか。明日はよさそうですね。今年の短期研修員の心がけはいいんだよ、な!

久里浜だより13

■午後は「体育・健康」の時間でした。私は城ヶ島まで走ってきました。長い距離をゆっくり走ることをL.S.D(Long Slow Distance)といいます。(L.S.Dという呼び方はちょっとあやしい。)道を間違えたので延々4時間以上走ることになってしまいました。でも三浦半島の最南端まで行って満足です。距離は30キロを越えていると思います。あと少し、というところで自動販売機でお茶を買ったら、なんと「あたたかい」お茶だった。今頃こんなもん売るな!
■いくつか同時進行で考えていることがあって、というか私の頭では理解できないのか、どうもすっきりしなくて気分転換にパソコンの雑誌でも買ってこようと夕方出かけました。ところが本屋で買ったのはパソコンの雑誌ではなくて『Newton』の7月号でした。特集が「神の設計図~すべてはDNAから始まる~」です。これを見たとき、はっとしました。
■午前中の講義は湘南福祉センター診療所長の猪股丈二(いのまたじょうじ)先生の『知的障害への医療的対応~発達障害とその援助~』でした。猪股先生は30年以上にわたって神奈川県の障害児を医療の立場からサポートされてきました。養護学校の校医としても学習内容について具体的なアドバイスをしてみえます。今日は知的障害、自閉症などの障害に対する医学的な分析と治療について話していただきました。
■教育現場にいる私は障害がある子どもたちを臨床的に見がちです。でも、医学的な選択肢としては自然科学的生理学的な方法論もあります。内臓の病気はもっぱらこっちですね。ややこしい言い回しなんですけど、障害もDNA分析で解明する話が今日ありました。自閉症のDNA分析はすでに始まっていて「Y染色体の異常に基く自閉症はわかっている」とのことです。DNAですから遺伝的側面も当然論議されます。これについてどう考えるべきなのか。心がそれを受け止める準備ができているのか。人権と倫理の課題です。猪股先生を「Y染色体…」という話だけで話題にすることは慎重になさってください。猪股先生は障害がある子どもたちと家族、まわりの人たちをあたたかい気持ちで見つめて治療を続けておられます。また自閉症という言葉も曖昧な側面がありますね。石川知子先生の講義では自閉症の診断は散文的な定義で行われているという話もありました。「自閉症スペクトラム」という考え方もありますね。“spectrum”は英和辞典で「(多種多様だが関連のあるものの)連続体」という説明があります。こんなことわざわざみなさんに説明することもないのですが、私はそう考えているという私の「文脈」をお伝えしたかっただけです。(^_^)
■DNA分析は今や企業の投資として行われてます。塩基の配列は著作権がらみです。その世界を垣間見したくて『Newton』を買ったのですが、この雑誌はちょっと良心的過ぎますね。NHKテレビの特集番組はドロドロした企業間の競争を描いていました。アメリカ政府もからんでましたね。
■猪股先生はテレビなどのマスコミの伝達内容をチェックする仕事もしてみえます。テレビで暴力シーンが増えてくると十代の暴力行為も増えるという相関関係を明らかにして民間放送に申し入れをされたとのことです。今回の「17歳」の事件の扱いもたいへん憂慮されていました。
■ところで、話はがらっと変わりますが、ゴキブリは人に慣れるものなのでしょうか。部屋に大きなゴキブリが1匹(たぶん1匹)いて、ずっと観察しています。ひょっとして人に慣れて手乗りゴキブリなんてなったらおもしろいと思うんですけどね。

久里浜だより12

■久里浜での研修が始まって3週間、「座学」をなんとか続けてきましたが学校現場との環境のちがいはやっぱり大きくて、かなり意識して体調を整えなくてはならないと実感するようになりました。食堂の食事の量が多くて運動量が急に減ったので体がついていかないのだと思いました。土曜日は雨が降る前に買い物に行って不足しがちな野菜などを仕入れてきましたがあとは部屋で寝ていました。疲れがたまっている。ひたすら眠る。こんなはずではなかったなぁ、明日も雨か、とぼーっと考えていました。講義や参観が続くとこんなのかと初めて知りました。講師の先生方もたいへん中身のあるお話をしてくださるのでなおさらです。あと、いちばん前の席にいることも原因の1つかな? OHPなどが見やすいし居眠りしない! でもストレスにもなる…。先週末から摂るエネルギーも減らして朝はパンとサラダにしました。そして運動です。昨日は天気予報を裏切ってまずまずの天気だったので鎌倉までバイクでロングライドをしてきました。いろいろ寄ったので往復で76キロ走りました。湘南は強い風と高い波でサーフィンやウインドサーフィンをする人がいっぱいでした。ところがものすごい潮風と砂嵐でベトベトザラザラになって帰ってきました。江ノ島もかすんでいました。
■今日の午前中は東洋大学助教授緒方登士雄先生の『ノンバーバル・コミュニケーション』という演習でした。机を端っこに寄せてノートもとらずにノンバーバル・コミュニケーションの体験です。先生役と子ども役の2人1組で言葉を使わずにやりとりしました。「立ち上がり、おじぎをする」など、先生役は子ども役がそうするように手で伝えます。勤務先で介助の研修もしているのでこれはちょっとうまくいきましたね。子ども役を体験するとまたちがう感じ方なのでいい勉強になりました。
■午後の講義はNISEの知的障害教育研究部長、文部省の教科調査官などを歴任された埼玉大学非常勤講師宮崎直男先生の『知的障害教育における教育課程と授業づくり』でした。教育のプロだったらこれくらいは…という迫力のある話で始まり、戦後の学習指導要領の特徴や裏話など興味深いものがありました。終わりは子どもたちの作品のスライドを80枚見せていただきました。宮崎先生は美術の先生だったわけです。チャイムが鳴ってからの先生の言葉はホンネ中のホンネだと思いました。「教師がねらっていることが身につけば生単でも教科でもいい。子どもの生活がベースということがいちばん効率がいい。」
■3日土曜日には小串里子先生から話を聞かせていただくことになりました。楽しみです。(小串先生は前回の『久里浜だより』に登場!)

久里浜だより11

■午前10時45分頃から午後3時45分頃まで、延々5時間も調布養護学校にいました。給食をはさんで授業を2時間参観させてもらったのでそうなりました。
■調布養護学校は校舎新築のために府中市に仮住まいです。窓の外を見ると府中養護学校の超豪華な校舎が見えます。どっかのテーマパークのようです。屋内プールが2つもある。米軍キャンプの跡地利用、だからこれだけのスペースがあるのです。しかもバブル全盛期の遺産です。超豪華です!
■調布養護学校では小学部6年生と中学部の音楽の授業を参観させてもらいました。次々と繰り出されるプログラムに私も惹きこまれてしまうほどの小気味よい流れでした。
■なんと、ここにもバイオリンを弾く先生がみえました。授業で『ユーモレスク』をきかせてくれました。子どもたちはしっかり見てしっかりきいていました。バイオリンの生演奏は子どもたちを惹きつけますね。横浜国大附属養護学校中学部の先生もバイオリンを授業に活用してみえます。(こちらはビデオでありますので見たいときは連絡してください。)
■中学部ではパネルシアターをブラックライトでしていました。音楽室に暗幕があって、きれいに浮かび上がる星やおもちゃには自然と気持ちも集中してしまいます。
■調布養護学校ではリトミックを音楽などの授業に取り入れていました。調布市では音楽療法士がセッションを行っていて、毎年1回、養護学校の先生と意見交換をしているそうです。学校のオフにセッションに通っている子どもたちも少なくないようです。
■あとでいろんな話を聞かせていただいて、スクールバスで帰る子どもたちを見送って帰ってきました。
■毎日毎日すごくたくさんのことが頭に入ってきます。自分でどう消化しようかとあたふたとしていると夜が明けてまた新しいことが入ってきます。今日もそういう状態で、調布養護学校を出て電車を乗り継いでどうにか銀座のヤマハにたどり着いて、あっという間に2時間以上が過ぎてしまって閉店でした。ヤマハでは奈良市の音楽療法の取り組みの本と、Jポップからクラシックまで355曲がコード入りでのっている楽譜を買いました。『エストレリータ Estrellita 』という曲をご存知ですか? すてきな曲です。この曲がのっているので買ってしまいました。
■研究協議の「音楽・美術・体育」という組み合わせでどういうレポートができるのか、わからないことが多いので楽しみでもあるのですが、やっぱり不安です。NHK教育テレビの『ストレッチマン』や青山の『こどもの城』をプロデュースされた小串里子先生は、都内の養護学校勤務中に美術と音楽、体育という組み合わせの学習を研究されていました。3教科を組み合わせたというよりも結果的に3教科を合わせた学習になったというべきでしょうか。6月に小串先生からそのあたりの話をきかせていだだく機会があるかも知れません。今は退職されて埼玉にお住まいとのことです。
■自分の頭の中を整理する時間がほしくなってきたこの頃です。

久里浜だより10

■午前中の研究協議で自分の実践紹介や課題についての協議をしました。今日は私の番で1時間くらいしゃべったり歌ったりしました。『あおむしくん』や『ぶたさんぶうぶうこんにちは』を実演したので度会養護学校の子どもたちの顔が次々と浮かんできて音楽室で授業をしている気分になってしまいました。
■午後は弘済学園園長飯田雅子先生の講義で、テーマは『知的障害への福祉的対応』です。通勤寮やグループホームで生活する人たちのようすをビデオで見せていただきました。6月1日には実地研修で弘済学園に行って行動障害の研修もします。
■明日は東京都立調布養護学校に行って小学部5・6年と中学部の音楽の授業を参観させていただきます。夕方、久里浜駅近くまで行って手土産を買ってきました。調布養護学校はここから片道3時間もかかります。11時の授業に間に合わせようとすると7時半頃のバスに乗らないと間に合いません。時間もかかるけどお金もかかります。こんな旅費は出ないんだろうな…。
■こちらでは歩くか走るかバイク(ロードレーサー=自転車)で用を済ませています。夕食にと駅前でポパイハンバーグ弁当を買ったのですが、弁当をバックパックに入れると横になるというか縦になって汁がもれたりします。今日は調布養護学校への手土産が入っているので絶対ダメ。しまった、どうやって帰ろう。そのへんで食べるような場所はない。あれこれ考えてDHバー(肘を乗せるタイプのハンドル)に弁当を乗っけて帰ることにしました。でもバイクはすごい振動で、梅干は動く、漬物もあっちこっちして、やっと海が見えるところまで来たとき振動と風圧で袋がずれて弁当が飛んでいきそうになってまいってしまいました。みなさん、自転車で弁当を買いに行くときはよーく考えましょう。
■今夜は7時から不登校の勉強会が始まっています。私は文集作りの編集会議に出ます。文集の名前は『野比2000』だとか。「野比」は「のび」と読みます。NISEの所在地名です。ヘンな名前だなぁ…

久里浜だより9

■今日は町田市への実地研修でした。朝7時集合、バス3台で町田市に行って3か所で研修、帰着は10時という予定です。どうして帰りがそんなに遅いかというと、横浜市のビア・ポートで懇親会をして、その後ベイブリッジの大黒パーキングエリアで休憩というちょっとお洒落なコースだったからです。町田市の研修は内容がつまっていましたが、天気は上々、アフター・ファイブは楽しかったです。ビアポートの飲み放題のビールはすごくおいしかったです。ホップの香りが新鮮でフルーティーですらありました。大黒パーキングでいちばん景色がいいのはマクドナルドです。シェイク片手にしばし夜景に見とれていました。
■町田市は就学指導の段階で「判定」ではなく「所見」という言い方で結果を保護者に伝えます。学校または学級を選ぶ情報を多く伝えて保護者は子どもの進路を決めます。1974年に東京都が地域の学校に希望者全員が入学できるようにとの方針を打ち出したので町田市でもそれに沿って取り組みました。かなり重度の子も地域の学校に入学するようになりました。子ども8人で1クラス担任2人という東京都の定数では担任が足りないので町田市が市の予算で指導員と介助員を付けました。そのための予算は小学校と中学校を合わせて年間2億数千万円です。また、市制30周年記念事業として障害がある人たちが働く場として「花の家」や「大賀ぐうし館」などを建設しました。福祉が充実している町田市には、障害がある人と家族がわざわざ引っ越してくることもあるそうです。ここまでの道のりは障害がある子どもの保護者や市のケースワーカーの人たちのたいへんな努力があってのことと聞きました。
■ところで「ぐうし」という言葉を聞いたことありますか? 漢字は第二水準だとあるのかな? 「藕絲」です。1951年(昭和26年)に千葉県検見川遺跡から発見された2000年前のハスの実3つのうち1個が発芽に成功。実の発見から発芽までを指導した大賀一郎博士の名前をとって「大賀ハス」と名づけられました。そのハスの茎から抜き出したクモの糸のような細い糸が藕絲です。藕絲を紡いで織って織物にしたり、ハスの実を念珠にしたりと、ハスをいろんなものに加工している町田市の通所授産施設が「町田市大賀藕絲館」です。そんなもの売れるのかな?と思っていましたが、商品開発もどんどん行って売れ行きは好調だとか。私は念珠を買ってしまいました。不思議な魅力があります。一度藕絲館を出てバスに向かって歩きだした研修員が、どうしようかな、まだ時間あるかな、と言いながらハスの実の念珠を買いに戻ったりしていました。
■『久里浜だより8+』の最後に英語のことを書きました。これは私のこだわりです。障害児教育は、というか障害児教育の用語も英語がたくさん使われていて、ほんとに自分のものになっているかな、どういう意味でその言葉を使っているのかな、と疑問に思うことがあります。障害児教育の考え方、理念、理論などは外国生まれのことが多くて、主に英語圏から伝わってくるので英語のままなんでしょうね。でも、そこでどうして訳語が生まれないのだろう、訳語が生まれてもどうして使われないことが往々にしてあるのでしょうか。保護者と話をするとき、英語では話したくないな、と思いつつも、保護者にとっても英語の方が理解しやすいのかな、とも思います。
■このところ洗濯物がたまっています。明日は洗濯だな…

久里浜だより8

■今朝は朝寝をしたので8時前に六角食堂に行きました。海が見える窓の前のテレビはちょうど中田喜直さんの遺作の話題でした。中田喜直さんは作曲家です。『夏の思い出』『雪の降るまちを』などの名作をたくさん作曲しました。この5月はじめに亡くなりました。彼の遺作は『すばらしき自然とともに』(こわせたまみ詩)という題です。病床で書いた楽譜はメロディーにコードがついただけのものでした。CやGといったシンプルなコードです。テレビではアレンジされてピアノ伴奏でソプラノ歌手が歌いました。なつかしい中田さんのメロディーです。時間が止まったかのようなひとときでした。中田喜直さんは私に日本語の歌曲の魅力を教えてくれた人です。CDが出たら買い直そうと思っています。
■IEPの講義から補足をしておきたいと思います。IEPの講義をされる先生方はみなさん短期目標は超具体的スモールステップだと言われます。例えば、「登校してランドセルをかける」「服の2番目と3番目のボタンかけをする」とか。これは佐賀大学附属養護学校のIEPです。
■干川先生もIEPを作るに当たっては、今ある情報を利用してスタートすることを言ってみえます。NISEの知的障害教育研究部長山下皓三先生は、まず1つ目標を決めて始めて、子どもとのかかわりの中から出てくることをまた目標にするくらいでと言われました。IEPを作ることに時間と労力をかけてすごい量のものを作っても使われないのではないかということです。佐賀大学附属養護学校のIEPは連絡帳や評価表兼通知表もあるので6様式ですが、少ないところでは1枚という例、評価が○×というシンプルな例もありました。(これは干川先生のOHPシートなのでコピーできませんでした)
■佐賀教育大学附属養護学校では、子どもたちの青年期の姿をめざしてトップダウンの考え方でIEPを作っています。子どもの成長のビジョンは地域で暮らす青年期の姿です。社会資源をどのように利用して自立し、仕事をし、余暇をどうやって過ごすのか、というところから考えます。だから小学部のときからお手伝いをしてもらったお金を貯めて映画を見に行くという学習活動もあります。小学校低学年はボトムアップの考え方も取り入れています。障害のちがいや障害のあるなしにかかわらずこの考え方は意義深いと思いました。
■今日の講義は「行動障害の分析と対応」で1日が終わりました。自傷が主なテーマでした。自傷、他傷、器物破損など行動障害はいろいろな形がありますが、「行動の型より、その行動の役割に注目する」ことが大事だという話が興味深かったです。自傷と他傷では全然ちがうではないかと思うのですが、子ども本人にとって「お母さんに相手してほしい」という意味なら自傷でも他傷でも何でもいいというわけです。知的障害の学校の子どもたちに多いケースかも知れません。もっとくわしい内容を知りたいときは連絡してください。明日の朝は7時集合で町田市まで実地研修に行くので今夜はちょっとご勘弁ください。

■訂正です。
■『久里浜だより』8号の「佐賀大学」が「佐賀教育大学」となっているところがありますが、正しくは「佐賀大学」です。もっと正確にいえば「佐賀大学文化教育学部附属養護学校」です。ごめんなさい。
■今日『英和中辞典』を家から送ってもらいました。英和辞典が手もとにほしくなるほどここでは英語が気になる講義が続きます。講義の文脈からして英語の方が理解しやすいのです。これ、私たち教育の現場にいる者にとって大きな課題ではないでしょうか。

久里浜だより7

■週明け早々ヘビーな1日でした。IEPの講義が午前中3時間午後3時間、計6時間があっという間に過ぎてしまいました。講義中のメモはなぐり書きとはいえ27ページにもなりました。日直室でも日直がパソコン持ち込んで今日の講義を打ち込んでいました。1人はPowerBookG3…見とれてしまった(^_^)…!
■午前中は熊本大学助教授干川隆(ほしかわ・たかし)先生が『個別の指導計画:考え方と枠組み』というテーマで、午後は佐賀大学附属養護学校教諭瀬尾裕子(せお・ゆうこ)先生が『養護学校における個別の指導計画』というテーマで講義をされました。白熱の1日でした。
■午前中の干川先生の講義はレジメにすべてがまとめられています。干川先生は講義ですべてを読み、説明をされました。(資料最後のIEPの例は紹介程度)
■この『久里浜だより』では講義で印象に残ったことを箇条書きでお伝えします。
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■IEPミーティングが大事。「IEPの作成過程の中心は、IEPミーティングです。ミーティングを通じて親と教師は、共に子どもの教育のプログラムに関する決定を行います。IEPミーティングの一つの成果は、IEPの記録です。この成果は、IEPチームによる関与とチームによって到達した結論について書いた記録です。」(ミネソタ州のIEP作成マニュアル)
■アメリカでは14歳以上の子どもにはITP(Individualized Transition Plans「個別移行計画」)が作成される。将来、地域でどういう生活をしていくことを目指すか、ということ。コミュニティーで、仕事で、レクレーションで。
■「保護者の思いを生かすには」、意見をきくだけではなく、親にビジョンをもってミーティングにのぞみましょうと呼びかけている。まず夢を語ろう。夢みたいなもの大事。PATH(Planning Alternative Tomorrow with Hope「パス」)という考え方。PATHとは夢を絶えず持ちながらなんとかしていこうとグループで考えること。みんなで夢を語っている。かなうかも知れないがかなわないかも知れない。北極星は見えているけど手が届かない。誰が、何がいいとか悪いとかじゃない。「1.夢に触れること-北極星。2.ゴールを感じること。3.いまに根ざすこと。4.参加する人を明らかにすること。5.力をつける方法を見つけること。6.次の数ヶ月の作戦を描くこと。7.次の1ヶ月を計画すること。8.最初の一歩を踏み出すこと。」(http://www.inclusion.com)
■IEPの課題は2つ。保護者の意見を入れることと、どう授業に活かすかということ。
(「引用」はすべてレジメにあります)
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■保護者の意見を入れるにしても、家族支援するPATHの考え方に感銘を受けました。将来こんなふうに生活していけたらいいな、という夢を語り合って、じゃあ、何から始めようか、と話を始めるわけです。このスタートは大事だと思いました。
■こうしたIEPが日本になじむのか。午後は佐賀大学附属養護学校で行われているIEPミーティングと教育活動全体についての講義がありました。内容が多いので今回はまとめられませんが、私はいいなあという感想をもちました。何かの機会にお伝えできたらと思います。休憩のあとで瀬尾先生がしみじみと語った言葉を紹介します。
■「ミーティングやることによって気が楽になった。最初はドキドキ。専門家の話聞ける。役割分担できる。教育実践やりやすくなった。自分だけで決めていないので自信もてる。保護者の了解得ているので効果も上がりやすい。教師だけではIEP作れない。保護者のニーズ取り入れることいちばんいい。『うまくいかないですよね』と言いやすい。教師の意識改革難しい。『私は私のやり方があるんだ』自分がやりたいことが優先課題になっている。支援者に徹する。…してよかったな、と思う。」
■実際のIEP作成にあたっては、様式は各学校で考えるもので、目標は具体的な方がいいこと、などなどありますが、それはそう大きな課題ではないでしょう。
■IEPミーティングのビデオはNISEの図書室にもあるというので一度見たいと思います。全部英語だとか。でも雰囲気はわかるはず…(-_-)…?
■ところで久里浜の猫たちと遭遇しました? こちらでは「もっと猫いるよ」と教えてくれますのでまた取材に出かけます。下のMySiteの右のURLをクリックするとブラウザが起動します。ぜひ猫たちと会ってやってください。

久里浜だより6

■5月20日土曜日、雨。
■東京都港区北青山のクレヨンハウスに行きました。トラや帽子店の『あそびうた大全集』を買うついでにいろいろ見てこようと思いました。
■昼、クレヨンハウスはランチタイムでバイキングです。生野菜をたくさんたくさん取って、ご飯は玄米を選びました。肉はスズキ、そしてシチューのチキンです。スズキ(魚です)がおいしかったです。野菜も米も食材はみんな有機農法で栽培されたものばかりとのこと。しかも新鮮なので歯ざわりも最高でシャリシャリバリバリと音がします。なんでこんなにもおいしいのだろうと甥っ子と2人でパクパクとすごくたくさん食べて大満足でした。1200円+消費税は安いと感じました。
■クレヨンハウスにはずいぶん長い時間いたのですが、5万冊というものすごい本の、ほんのちょっとを見ただけです。子どもの本はものすごくたくさんあるだろうと思って行きましたが、3階の「女性の本の専門店ミズ・クレヨンハウス」の品揃えには驚きました。本屋さんのカテゴリーからすると「社会、哲学、人文、心理学、芸術」というところでしょうか。でも、そんな枠ではくくれない魅力的な本が集められています。バージニア・ウルフ(イギリスの作家)の邦訳がちゃんと出版され続けて何冊も並んでいることも、グレン・グールド(カナダのピアニスト)の書簡集がさり気なく並べれられていることも、まるで自分のために揃えてくれたのではないかと、ふとそんな気にさせる本棚でした。目は点! クレヨンハウスは大阪にもあることを知りました。
■次にカワイ(楽器メーカー)のショールームに行ってグランドピアノを試弾させてもらいました。120万円ちょっとの小さなグランドピアノ(奥行き160cm)ですが、その音のよさに驚きました。芯のある響き、深み、のびやかさ、音が形として見えてくるような、手を伸ばせばふれることができるような音がしました。鍵盤の手ざわりも象牙のそれと似ていて、アクションもきっといいのでしょう、音のコントロール性も及第点でした。これが120万円? 高いけど安い!
■姪っ子のガイドで、青山通りでコーヒーを飲みました。“STARBUCKS”(スターバックス)という外資系のコーヒーショップです。セルフサービスの店です。私はカプチーノにしました。280円。これがすごくおいしい。コーヒーってこんなにおいしいものだったのかとこれもびっくりです。コーヒーは紙コップに入っていて、そのコップはアメリカのシカゴで製造云々と英語でプリントされていました。
■コーヒーを飲みながらいろんな話をして、デビッド・ヘルフゴットのピアノ・リサイタルの話になりました。彼は映画『シャイン』のモデルです。演奏活動をしていることを知らなかったのでまたまたびっくり仰天です。彼はてんかん、精神疾患があります。彼のピアノはきく人のインスピレーションに響くものがあってすばらしい。6月に彼は東京でリサイタルをします。チケットを買ってくれているので彼の演奏がきけることになって感激しています。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のCDは日本でも発売されています。
■青山通りとの交差点近くの表参道に“AOYAMA DIAMOND HALL”という建物があります。最近できたものかな。御影石の壁に外国の人が人待ち顔でもたれていて、ここはニューヨークか?とはっとしました。
■ここまで今日はプライベートなことをたくさん書きました。でも、今日は、そうしていながらもずっと金曜日の講義のことを考えていました。
■金曜日から障害児教育の核心の講義が始まりました。金曜日は選択講義で、「発達障害の診断と療育」と「自閉症の教育と医療との連携」のどちらかを選びます。私は前者を選択しました。講師は筑波技術短期大学教授の石川知子先生です。講義のテーマは発達障害全般を含むものと受け取られますが、実際は「広汎性発達障害(=自閉症)」が中心です。
■石川先生は医学博士で、日本に2つしかない小児精神科医療施設の1つ、梅が丘病院で診察もされています。(もう1つは三重県のあすなろ学園です)ドクターの言葉は「先生」をしている私のそれとはちがいます。(行政の人はまたちがいます。)石川先生はそのちがいに共感をもって話をされていました。
■「講義要旨」から引用します。(石川先生のレジメは27ページもあります。)
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■近代医学の進歩により、身体疾患については精緻な自然科学的診断技法が開発されていますが、精神疾患の診断については、残念ながら未だに臨床という経験科学に頼らざるを得ないのが現状です。児童青年精神医学で発達障害とされるものには、精神遅滞、特異的発達障害、広汎性発達障害(=自閉症)の三つがあります。(中略)過半数に精神遅滞が併存する広汎性発達障害は、発生機序も未だに解明されていませんが、人間存在の根源をなすものについての示唆を与えてくれる興味深い障害です。特殊教育の場でも対応が難しいといわれます。それゆえに、講義は広汎性発達障害に重点をおこうと思います。ひとりひとりの子どもに、より適切な教育や指導を行うためには、この障害についての医学的診断や障害にかんする的確な知識が不可欠です。講義では多数の症例を提示し、詳細な解説を加え、障害の本質についての理解を深めて頂いた上で、教育や訓練上の諸問題を考察します。その他の障害(LD、てんかん等)との関連、長期予後(青年期や成人期の社会適応の問題)、薬物療法等についても触れるつもりです。
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■自閉症の定義はICD(WHOによる『国際疾病分類』)とDSM(アメリカ精神医学会による『精神障害に診断ならびに統計のための手引書』)がレジメにあります。石川先生はそれらの定義を「散文的な叙述」と言われました。また、その診断をする際の判断について「コンテクストに合っている」という表現もされました。「コンテクスト context」には「文脈」という訳語があります。でも、これはひょっとしたら日本語にはない概念かも知れません。「文脈」という訳語は誤解が生じるかも知れません。人は自分の体験や経験の上に立ってその時その時の理解なり判断をします。その判断の流れがcontextではないでしょうか。話をしていて「ああ、やっとわかった」と思うときがあります。「腑に落ちる」という表現の仕方もあるでしょう。それはcontextとして理解し得たということだと思います。
■ドクターのcontextと「先生」のcontextはニアミスの連続でしょうか。でも、石川先生の講義はそのニアミスを限りなく近づける前向きなものでした。親のcontextもきちんと考えてみえます。
■クレヨンハウスのcontext、カワイのピアノのcontext、“STARBUCKS”のcontext、“AOYAMA DIAMOND HALL”のcontext、デビッド・ヘルフゴットのピアノ・リサイタルのcontext、今日出会った驚きのそれぞれはそれぞれのcontextがあるが故の驚きだったと思います。簡単にいうとカルチャーショックかな。

久里浜だより5

■16日火曜日は久里浜養護学校の校長先生の話と参観でした。学校のくわしい紹介、学校と地域とのつながりについて、また、「特殊教育」のあり方について話をされました。子どもたちの話、現場の話となると研修員はさらに身を乗り出して聴いて見て深く考えています。
■バス停の「国立特殊研究所」という名前についてのエピソードが久里浜養護学校はじめNISEと地域とのかかわりを表しているようにも思われました。戦前から横須賀は海軍の町だったこともあってか、あそこでは一体何を研究しているのかと不信に思った住民が昨年久里浜養護学校を訪れたそうです。「悪いことはしてませんよ、と説明しました」とのこと。私らは笑ってしまいましたが、校長先生は「笑っちゃいけない、きちんと校長室で対応したんですから」と言われましたから、おそらくかなりの誤解があったのでしょう。でもバス停の「国立特殊研究所」にはびっくりです。
■養護学校はこんなところですというPRをして、学校の特性を活かした公開講座もして地域のみなさんに還元していこうと考えているようです。近隣の養護学校には幼稚部をおいている学校はないので幼稚園や保育所の先生を対象に講座をすることも考えているとか。
■さて、久里浜養護学校は今28人の子どもたちがいて、知的障害と盲・聾・肢体不自由・病弱・情緒などの障害を重複しています。定員が54人なので今はおよそ半分の子どもしかいません。最大でも30数人だったとのこと。6つの教室が廊下で結ばれている構造の校舎で、子どもと会いたいと思っても各教室の奥に行かないと姿を見ることができません。静かでした。
■ある教室に行ったら経管栄養の子どものそばに女の人が座っています。先生かな、と思ったら看護婦でした。なんと、5人の看護婦がいるとのこと。えっ、とびっくりして質問すると、看護婦は学校には付かないので、もともと寄宿舎に付いていた看護婦を、組織を改変して学校で仕事をしてもらうようにしたということです。「私たちはとても助かっています」…それはそうでしょう。とにかく子どもにずっと付きっきりなのです。
■別の教室では、先生が歌いながらギターでコードを押さえて子どもがジャランと鳴らして、それが2人で話をしているかのようでした。
■度会養護の子どもたちを思い出しました。何しとるんかな、今頃、と。
■久里浜養護学校の子どもたちは、朝10時に登校して、幼稚部は1時30分、小学部は2時30分に下校です。通学はスクールバス、自家用車、電車とバス、そして寄宿舎にも9人入っています。
■給食は子どもたちの分しかありません。普通、きざみ、ミキサーの3種類を作って、子どもに合わせてさらに二次調理もします。先生は弁当で、日によっては子どもたちが下校してから弁当を食べることもあるとか。
■学校の前は海です。天気もよくてすてきでした。三浦半島の先までずっと海岸線が見えるのです。
■今日17日水曜日は、午前中はコンピューター実習、午後は文部省の特殊教育企画官の講義でした。
■コンピューターは、基本的な操作の班と、ワードを使ってホームページを作成する班に分かれました。私はホームページ作成の班です。ワードでwebページを作るのは初めてでしたが、ワープロ感覚の操作で作れるので感心してしまいました。でもワードの操作の説明がほとんどなのでもの足りないところがありました。
■休憩の15分はおもしろかったです。「オプショナル・ツアー」でサーバーを見せてもらいました。1つ200万円余もするサーバーがゴロゴロしていて、24時間稼働しています。研究所のコンピューター・システムの心臓部です。管理はNISEの職員でした。
■NISEのコンピューター・システムは2つあって、1つ、いちばん大事なデータベースやメールを管理するサーバーのOSはUNIX(ユニックス)です。とにかく1回スイッチを入れたら1年間何もしなくても確実に動いてくれるんだそうです。もう1つ、端末でワードやエクセルを使うためのサーバーのOSはWindowsNTです。1週間に1回はリセットしないとまともに動いてくれないとのこと。ひどいところは毎日リセットするらしい。Windowsはお金もかかるし(ハードはUNIXの2倍するらしい)トラブルになったらどこがどうなっているのかさっぱりわからない。1台で使うにもOSはUNIX系がいいと強調していました。三重県はWindowsらしいし、大丈夫?
■昨夜、東海圏人会がありました。長期研修員1人、短期研修員12人、久里浜養護学校5人、研究所8人の総勢26人です。三重県からは短期研修員3人だけでした。愛知県は久里浜養護学校と研究所にもたくさんの人材を送っています。
■研修が始まって10日になろうとしています。みなさん慣れてもきましたが、ちょっと疲れ気味。当番はアイウエオ順のせいか、私は日直も掃除も第1週に当たってあわただしく過ぎました。こんなものかな、と思っていましたが、今週はちょっとゆとりがあります。洗濯機とコピー機は人気があるので使うにはタイミングが大事です。夜はみなさんよく寝ます。昼間よく動きますから。精力的に情報収集をしたり、見学や参観の交渉をしたり、コピーをしたり…。26日の自己研修では横浜国大附属養護学校にたくさんの人が参観に行きます。宮城県の養護学校がちょうど研究会なので東北まで行く人も何人かいます。ねむの木学園に行く人もいます。土日も研究会に参加する人もいます。パチンコを10時間以上した人もいます。今夜、東京まで「わらべうたの会」に行った人もいます。26日、私は調布養護学校に音楽の授業参観に行きます。
■では、また。