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カストルプが歌う「ただ一度だけ」

ジブリの映画「風立ちぬ」の一場面、軽井沢のホテルでカストルプがピアノで弾き語りをする曲「ただ一度だけ」(Das gibt’s nur einmal)が耳から離れなくて映画を今一度観直しました。この曲というかこの歌、はたまたカストルプに続いて皆が歌いだすシーンは一体何かと考えてしまいました。戦前の軽井沢といえどもこの歌をドイツ語で歌える人が偶然にもそんなに集まれるものではなく、このシーンはどういうメッセージがあるのかということですが、それはさておき、この曲は耳から離れないというより耳につくところがあります。そして、自分で奏でたくなる曲です。次は、楽譜は手に入るのだろうかということ。ネット上でもこれというものはなくどうしたものかと思っていたとき、ふと思い出したのは古い楽譜ばかり詰め込んだ本棚でした。探したらあるものでまさかの発見でした。『スタンダード名曲集 5』(日音 S60)に「唯一度の機会」という題でありました。その楽譜はちょうど30年前の発行です。次はピアノを弾けるようにしないといけない。つまり、部屋の片付けでそこで止まっています。

この曲は1931年の映画「会議は踊る」の中の1曲で、舞台はウィーンなのでリリアン・ハーヴェイはドイツ語で歌っています。もともと儚い夢の様なシーンで歌われて芸術性とは程遠い印象がありますが、ところが、この曲はドイツ語で歌われる故か私にはとても優雅に聴こえます。ドイツ・リートの香りが漂うのです。他の録音といってもApple Musicでも数種類しかなく、今日的なダイナミクスでその醍醐味を表現しているものは鮫島有美子だけのように思います。こうしてリート然と歌うもよし、カストルプのようにパーティで歌うもよし、という不思議な歌です。私はカストルプが纏うちょっと怪しい雰囲気で歌うのが好みですが…