月別アーカイブ: 2016年12月

グレン・グールド、幾度か

このクリスマスイブは夜の小一時間、伊勢のMcCafeで一人過ごすことがあって、ふと、思い出したことがありました。コンサート活動を止めてレコードなどのメディアでの演奏活動に切り替えたグレン・グールドは住まいを隠し、食事は町外れの「およそ彼のレコードを聴く人は行かない町外れのモーテルのレストラン」で食事をしていたと本で読んだことがあります。青春真っ只中の当時の私はこのフレーズが心に染み入ってグールドを崇め奉るような心境になりました。こうしたグールドに対する思い込みをもって音楽を聴くことが好ましくないのはわかっていますが、それは若さゆえの特権でもあり誰からも責められない領域です。そして、還暦前の今頃になってそうした音楽の聴き方がいよいよ肯定的に思えるようになってきました。今はそんな時間がなかなかもてないのでなおさらそう思うのかもしれません。好きな音楽を好きなように聴く、ただそれだけです。黒と思しきコートのポケットに両手を入れてベレー帽をかぶり湖畔に佇むグールドの姿は私の脳裏に焼き付いています。

ならばと「グレン・グールド・バッハ・エディション」なる38枚のCDをiTunesに検索しやすいようにインポートしてこの冬はグールドが弾くバッハに溺れるように聴こうではないかと思い立ちました。あと、この秋に発売された「グレン・グールド・リマスタード~ザ・コンプリート・ソニークラシカル・アルバム・コレクション」(81枚ボックス)も実売価格がこなれてきたので購入することにして今日届きました。レビューによるとリマスターの方が音がいいとか。でも、LPレコードの味わいもまたいいものです。この年末年始はグールド三昧です。

映画2本

冬休み1日目、年末の3連休の初日は朝から映画を観ました。「チョコレートドーナツ」と「私の中のあなた」です。字幕の一字一句も読み逃さぬようにと何度も戻っては確かめながら観ました。「チョコレートドーナツ」は1979年の設定で現時点では性的マイノリティについては歴史的叙述の色彩も感じました。障がいがあるマルコの日常はまた異なる要素が感じられました。この2本の映画を続けて観ていたとき、私は「Nothing about us without us !(私たち抜きに、私たちのことを決めないで!)」という言葉を思い浮かべていました。闘う、ということにおいてはポールとルディは果敢に行動しています。文字通り社会と闘っている。2本とも裁判が舞台にもなっています。でも、マルコはそうした闘いが困難です。それだけに彼の死は無言の訴えでありながら強く心が打たれる。「Nothing about us without us !」は障がいの有る無しにかかわらず人が生きていくときにもっとも大切にされなければならないことのひとつです。

「私の中のあなた」は先月DVDを買い求めて久しぶりに観ました。日本での公開は2009年、もう7年も前のことで、私が現在の病弱特別支援学校に前回勤務していた時のことです。その時は映画館で観ました。メインテーマもさることながら弁護士のてんかん発作を教える介助犬ジャッジが印象的でした。そして、両親を裁判に訴えるアナの言動に11歳ながら自立した人の姿があるように感じて惹かれました。また、兄、ジョディの姿を通して病気の子どもの多くのきょうだいの問題についても取り上げています。彼のディスレクシアと思しきところを理由に寄宿制のトレーニングスクール?に1年間行くことを両親から説き聞かされたり、夜の街をさまよったりするシーンに心が痛みますが、家族をある意味いちばん客観的に冷静に見ていたのはジョディでした。こうした緻密に作り込まれた映画「私の中のあなた」は名作だと思います。

今日は何ヶ月ぶりかでよく寝た1日でもありました。明日からまた始動です

がん対策基本法改正

今朝は何事もなく新幹線に乗り込みました。今日はドラマがないなと思っていたら先ほど新幹線の車内ニュースでがん対策基本法改正が伝えられ、「学業と両立」という言葉に目を見張りました。ニュース提供の産経ニュースはこちらですがおそらく間もなくリンク切れになると思うので一部を引用します。

「この10年でがん対策や治療は進み、闘病しながら仕事や学校などの社会生活を送る患者も増えた。改正案では企業などの事業主に対してがん患者の雇用継続に配慮するよう求め、患者が適切な医療だけでなく、福祉や教育などの必要な支援を受けられるようにすることを目指す。」

法令は次のとおり。

(がん患者における学業と治療との両立)
第二十一条
国及び地方公共団体は、小児がんの患者その他のがん患者が必要な教育と適切な治療とのいずれをも継続的かつ円滑に受けることができるよう、必要な環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。

今週は一段と慌ただしかったのでニュースや新聞をゆっくり見る時間もなく1日のタイムラグで知りました。小児がん医療が進む中、小児がん経験者も増え続けています。晩期合併症などがある子どもたちも通常の学校にたくさん在籍しています。理解と支援の広がりと質的な向上のために病弱特別支援学校が果たす役割は大きいと考えます。また、今回はがんに係る法整備ですが、小児慢性特定疾患の医療費補助対象者数は704疾患、約15万人(平成27年度推計 厚生労働省)もいます。就学前の子どもを1/3としても小中学校、高校等年代は約10万人です。そして、特別支援学校及び特別支援学級の病弱教育対象児童生徒数は23,080人(重複含む)(平成27年度 文部科学省)で、その大部分は通常の学校に在籍しています。三重県では病弱特別支援学校が来年度から拡充されます。この機会に病気の子どもたちの理解と教育支援の充実に一層邁進することがミッションです。今回の出張もそのためのものです。「病気のときでも教育はできます 病気のときだからこそ行うべき教育があります」全国特別支援学校病弱教育校長会からのメッセージです。

ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466の呪縛

正確には「アンネローゼ・シュミットの呪縛」と書くべきかもしれません。モーツァルトのこのピアノ協奏曲を初めて聴いたのは高校生の頃か大学生の頃か、今では定かではありませんが、気がつけばスコアを買い求めて彼女の硬質なピアノの音を頭の中で再現していました。その演奏、音は、この曲の絶対価値の如く聴き続けてきました。最近、アンネローゼ・シュミットのモーツァルトピアノ協奏曲全集なるものまで買い求めました。ところが、なのです。ふとしたことでiTunes Storeでマウリッツィオ・ポリーニの「Mozort Concertos para piano」を知ってこの曲の世界観が一変してしまいました。まず、オーケストラの音が軽い。バルセロナのオーケストラらしい。もちろんいい意味で軽い。蝶が風に扇がれながらも軽やかに舞うような天衣無縫の如く流れる。ピアノを奏するマウリッツォ・ポリーニは何歳の頃の録音なのだろうか。彼らしく芯を押さえながらもそのオーケストラとのマッチングは何ら違和感がない。聴いていて肩がこらない。この歳?でこんな楽しみ方を知るのも新鮮でとてもいいと思うのだ。

勤務先隣接の国立三重病院のエントランスと前のロータリーにクリスマスのイルミネーションが備え付けられて点灯し始めました。シンプルですがとてもきれです。運がいいとロータリー横のタクシー駐車場に止まった3台のタクシーの赤とルーフの緑のライトもクリスマスカラーで映えます。今週末は東京に出張です。東京のクリスマスのイルミネーションも楽しみのひとつです