月別アーカイブ: 2000年5月

久里浜だより4

■昼3時頃までいい天気でした。午後の講義が遅れて2時開始となったので昼休みに洗濯をして干しました。真っ白のシャツが海をバックにゆっくり揺れているのはほんとに気持ちのいいものです。
■午前中は研究協議の第1回目でした。知的障害教育コースの69人は最終的に次のようにグループ分けとなりました。
A:自閉児の指導=6人
B:コミュニケーション=9人
C:職業教育・移行教育=7人
D:発達=11人
E:教科学習(国・算)=9人
F:教科学習(音・体・図)=6人
G:自立活動・個別指導計画=9人
H:総合的な学習=6人
I:交流学習=6人
■私はF班で、音・体・図という組み合わせはかつて途中でまとまらなくなったこともあったようです。メンバーの6人は音楽が2人、体育が2人、図工が2人です。音楽・体育・図工と教科は分かれていますが、聴覚・視覚・触覚・前庭覚などへの感覚刺激で積極的にアプローチして子どもたちからの主体的な動きや働きかけを引き出す工夫を研究していくことになりました。1人1時間程度、1回に3人ずつ、計2回の研究協議でお互いの実践や計画、課題を発表して、さらに実践の工夫をしていきます。研究室に相談したり、図書室で調べたり、研修員にアンケートをお願いしたり、場合によっては近隣の学校に参観に行ったりして進めます。レポートはNISEの図書館に製本して納められることになるので緊張感があります。
■午後の講義は『世界の特殊教育』がテーマでした。総合企画調整官の阪内宏一氏が講師です。文部省サイドというと構えてしまいがちですが、私見も交えるたいへん真摯な姿勢で感銘を受けました。こんな講義の終わりには自然と拍手が出ます。
■“SEN”(special educational needs)という言葉を前回の“久里浜だより”に使いました。“SEN”は1978年にイギリスの『ウェーノック?報告』で初めて使われた言葉で、文字通り「special educationを必要としている」という意味で
す。障害がある子どもはspecial educationが必要です。だけど“gifted”(優秀過ぎる子ども)にもspecial educationが必要だという考えです。つまり、どの子どもにもspecial educationが必要で、これが個別の教育課程なんだ、ということですが、保護者の声が大事にされているところが日本とちがうという話がありました。保護者は学校に「お任せします」ということが多くてなかなか保護者の願いが伝わってこない。でも学校は保護者にどれだけ働きかけをしているかな、と私は思いました。
■これは文化のちがいと言ってしまえばそうなんでしょうけど、欧米の個人主義と日本の“日本的な部分”とのちがいはこれから急速になくなってくるんだと思います。日本が欧米に近づくという形で。何事も言葉で説明したり言葉で理解する、というような社会です。これも英語で言う方がよく伝わるかも知れません。accountabilityです。お互いに。(accountという名詞と動詞の意味の方が大事かな。「説明」です。)でも、そうした目に見える関係の急速な変化に心がついていけるのかな、とも思います。
■講義が終わると大勢の研修員は研究棟に直行します。“端末”を使ってメールチェックをしたり、自己研修先を探したりするのです。図書室にもたくさん行きます。私は図書館で調べものがあったのですが、途中、ネコたちと会ってデジカメで写真を撮りました。ノラネコだそうですが5匹いてゴロゴロと寄ってくるネコもいます。ネコたちの映像もホームページにアップしますのでまたご覧ください。

久里浜だより3

■久里浜の週末は曇り時々雨でした。それでも釣をする人、ウインドサーフィンをする人、ジョギングをする人たちがいます。それを「趣味」という言い方もしますが、私はもっとちがう言葉を使う方がいいように思うことがあります。私も金曜日の夕方小雨の中を走ってきましたが「趣味」ではないように思っています。だったら何なのでしょうね。
■この土日は東京の姉の家に行って来ました。相模原市の麻溝公園のクレマチス展も行きました。とてもきれいでした。帰りに淡い黄色のリーガルベゴニアの鉢植えを買って来ました。
■さて、先週の各研修部からのオリエンテーションの嵐をどう自分で消化しようかとずっとずっと考えています。各研究部の講義のテーマは全部「障害児教育~その課題」で同じでした。視覚障害研究室、情緒障害研究室、言語機能障害研究室、知的障害研究室、肢体不自由教育研究室、病弱教育研究室、聾教育研究室、重複障害研究室、教育工学研究室、附属教育相談施設、特殊教育情報センター研究開発部門、全部で11のセクションの講義を50分ずつ何日間も続けて聴くのですから頭の整理がつきかねます。
■各研究室からのオリエンテーションでよく聞かれた言葉に“inclusion”があります。“integration”は子どもたちを障害の有る無しでまず分けてからもう一度いっしょにして教育をすることで、“inclusion”は最初から分けずに教育していくこと、という定義の仕方があります。ユネスコは1994年に“inclusiveeducation”という言葉を使い始めたのかな? でも定義はとくにされていない。“SEN”(special educational needs)という考え方では“gifted”(優秀過ぎる子ども)にもspecial educationを、となります。
■OHPシートや資料には英語がたくさん出てきます。どうして英語なんだろうと不思議に思うくらい英語が多いのです。日本語の訳語があってもわざわざ英語が併記されていたりします。障害児教育に限ったことではないのですが、こうした理念なり概念、原理は欧米生まれが多いように思いますがどうしてでしょうね。
■いよいよ明日から「研究協議」が始まります。研究討議は「テーマに基いて7班ほどのグループに分かれ、約30時間の協議」をするものです。その研究の成果を最終的なレポート(A4版約1000字を10枚程度)とします。
■前以て研究協議のグループ分けの資料とすべくレポートの提出を求められました。「現在課題としているテーマ、特に関心のあるテーマなど1つないし2つに絞って、A4版1枚程度にまとめて4月末までに」郵送するというものでした。私は『養護学校において音楽療法のよさを活かすには』というテーマで書きました。でも音楽をテーマとする人は少ないだろうと思って、幅広く子どもたちと音楽や音楽的要素とのかかわりを考えていきたいという内容のレポートとしました。
■自己紹介で各自のテーマを発表する機会がありました。音楽は私を含めて4人いました。実際のグループ分けは明日行います。研究部の原案のメンバーで集まって各自が意見交換をして、これでやっていけるかどうかを確認し合います。もし自分と合わないと思ったら他のグループに移ることができます。おもしろいシステムです。
■では、また…

久里浜だより2

■今日はNISE(国立特殊教育総合研究所)のコンピューターシステムと研修員のパソコン事情について書きます。
■こちらにきて2日目に自分のパスワードやメールアドレスをいただきました。システムの紹介はNISEの電子計算機係作成のマニュアルから引用します。
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■この端末はWindowsNT Server Terminal Editionを基本ソフトとするサーバに表示されている画面を利用者からの端末から覗いているようなしくみのシステムです。
■この端末本体にはパーソナルコンピューターに搭載されているハードディスクドライブはありません。
■どの端末を利用しても自分のデスクトップ環境で利用できます。どの端末も自分のユーザー名、パスワード、ドメインを入力すればみなさまが最後に利用したディスクトップ環境で利用できます。ですから昨日この端末を利用してWord等で文書を作成して保存したから今日もその端末を利用しなくてはならないというこはありません。受信したメールについても同様です。
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■端末は各研究室、図書室、ブラウジングコーナーなどにたくさんあって、どれを使っても自分の使い勝手で使えるという便利なシステムです。端末のモニターは全部液晶で、これが目にやさしくてとてもいいものです。
■ハードはコンパックです。納入設置はNTT。管理もNTTかな。教育工学研修室が研究所のシステムの維持管理まですると肝心の教育工学の研究をする時間が取られるからたぶん外注でしょう。
■WindowsNTなので端末を使うときにはログ・インの手続きをとります。ユーザー名とパスワードを入力します。それでワードやエクセルなどのアプリケーションを使ったり、ブラウザーを使ってインターネットに入ったりします。メールの送受信はサーバの自分のメールボックスにブラウザーでアクセスします。グループウエアはロータス・ノーツでメールもノーツです。私としては“あの”ノーツを使うことができて感激しています。
■昨年12月にこのシステムが導入され、短期研修のように大勢で本格的に使うのは本年度第一期が初めてだそうです。一度に数十人がログ・インするとどうなるかな、と心配する声もあります。
■研修員はこの端末を使って図書館などのデータベースを利用したり、メールの送受信をしたり、レポートを書いたりします。とくにパソコンを持ってきていない研修員は勤務校や友人とのメールのやりとりに端末をよく利用しています。
■研修員の多くはノートパソコンを持ってきています。プリンタも何人か持ってきているようで、私もキャノンのモノクロ専用プリンタを用意してきました。久里浜に来てから秋葉原に行って初めてパソコンを買ったという人もいます。宿泊棟の2台のグレ電(データ通信ができるグレーの公衆電話)はデータ通信をしたい人が順番待ちすることもあります。
■私はグレ電とIDOの携帯電話のパケット通信の両方を使っています。部屋でメールチェックをするのはパケット、多量のデータをやりとりするときはグレ電です。そうそう、久里浜の映像をいくつかホームページにアップしたのでなにかのついでにでも見てください。いいところです。活断層の上に建てられているのがかなり不安ですが。
■講義に持ち込むパソコンはやはり長時間バッテリー駆動ができることが求められます。長期研修員でひとりパナソニックの Let’sNoteを使っている人がいます。マルチベイにサブバッテリーをつけると10時間近いバッテリー駆動ができるはずです。
■パソコンによって研究がかなり効率的になっているようですが、NISEの教育工学研究部長のオリエンテーションでは、コンピューターはまだまだテクノロジーとしては未熟だという話がありました。研究所のNTもそうそう安定していないようですし、私はMy Documentsを毎日バックアップしないと眠れない人です。

久里浜だより1

「久里浜だより」は2000年度国立特殊教育総合研修所短期研修知的障害教育コースの短期研修員として派遣された当時のリアルタイムのプライベート・メールマガジンです。講義録の持ち出しを制限されていましたのでネットでの公開は控えていましたが、この研修は私の人生の大きなターニングポイントのひとつというだけなく、日本の障害児教育の質的向上を求める国立特殊教育総合研修所のスタッフの熱い思いの結晶のひとつの現れと捉えてアップをすることにしました。これは講義録ではありません。私の日記です。このことをご理解の上お読みください。このページの無断引用は決してなさらないでください。尚、アップに際して勤務校との事務的なやりとりやプライバシーにかかわることなど一部を削除しました。

■神奈川県久里浜の国立特殊教育総合研究所(NISE)の短期研修「知的障害教育コース」に来て3日が過ぎようとしています。オリエンテーションとして各研究室からの講義が続く中、懇親会も終わって研修員どうしも打ち解けてきました。
■私の部屋は幸運にもオーシャンビューです。1階なので満開のつつじの間から海が見えます。宿泊棟の白い柱、つつじの鮮やかな色、まるで南国にいるかのようです。久里浜の海は太平洋です。海は透明度もあってきれいです。波が高い日は潮騒が聞こえます。ここで2か月間勉強に専念できるのはまたとない絶好の機会です。送り出していただいたたくさんの方々に感謝しています。
■窓は白いブラインドだけなので早い時間からすごく明るくて、6時過ぎには目が覚めます。朝一番にブラインドを上げて海を見ます。9時に研修棟に行きます。研修棟は歩いて1分くらい。講義は夕方4時15分に終わります。こうして書くとなんとゆとりのある毎日だと思われるかも知れませんが、オフの時間は図書館に行ったり本を読んだり、考えごとをしてパソコンに向かったりと、今しかできないことにけっこう追われています。
■だからリフレッシュタイムの「体育・健康」があります。昨日の午後、私はジョギングで三浦半島を海沿いに南下するコースを15キロくらい走ってきました。ウインドサーフィンをする人、絵筆をとる人、学校の帰りに浜辺で花を摘む中学生、海沿いの道に捨てられた廃車で暮らす人、ネズミ捕りをする人(神奈川県警!)…かつて「体育・健康」の時間にダンスやレクリエーションゲームなど行っていたそうですが、かえってストレスがたまるということで「くれぐれも勉強をしない」時間として自由に使えるようにしたとか。こんな時間をプログラムに組むとはなんと粋なはからいか! でも研究する環境とは本来そのように自由でなければならないと思っています。
■講義録の配布は禁じられていますので、私が考えたことなどをお知らせしようと思っています。オリエンテーションの講義はすでにいくつか終わっていますが自分の中でもう少しあれこれ考えてからにします。
■久里浜の海は近々ホームページにアップすべく準備をしています。
■では、また…