日別アーカイブ: 2000-05-20

久里浜だより6

■5月20日土曜日、雨。
■東京都港区北青山のクレヨンハウスに行きました。トラや帽子店の『あそびうた大全集』を買うついでにいろいろ見てこようと思いました。
■昼、クレヨンハウスはランチタイムでバイキングです。生野菜をたくさんたくさん取って、ご飯は玄米を選びました。肉はスズキ、そしてシチューのチキンです。スズキ(魚です)がおいしかったです。野菜も米も食材はみんな有機農法で栽培されたものばかりとのこと。しかも新鮮なので歯ざわりも最高でシャリシャリバリバリと音がします。なんでこんなにもおいしいのだろうと甥っ子と2人でパクパクとすごくたくさん食べて大満足でした。1200円+消費税は安いと感じました。
■クレヨンハウスにはずいぶん長い時間いたのですが、5万冊というものすごい本の、ほんのちょっとを見ただけです。子どもの本はものすごくたくさんあるだろうと思って行きましたが、3階の「女性の本の専門店ミズ・クレヨンハウス」の品揃えには驚きました。本屋さんのカテゴリーからすると「社会、哲学、人文、心理学、芸術」というところでしょうか。でも、そんな枠ではくくれない魅力的な本が集められています。バージニア・ウルフ(イギリスの作家)の邦訳がちゃんと出版され続けて何冊も並んでいることも、グレン・グールド(カナダのピアニスト)の書簡集がさり気なく並べれられていることも、まるで自分のために揃えてくれたのではないかと、ふとそんな気にさせる本棚でした。目は点! クレヨンハウスは大阪にもあることを知りました。
■次にカワイ(楽器メーカー)のショールームに行ってグランドピアノを試弾させてもらいました。120万円ちょっとの小さなグランドピアノ(奥行き160cm)ですが、その音のよさに驚きました。芯のある響き、深み、のびやかさ、音が形として見えてくるような、手を伸ばせばふれることができるような音がしました。鍵盤の手ざわりも象牙のそれと似ていて、アクションもきっといいのでしょう、音のコントロール性も及第点でした。これが120万円? 高いけど安い!
■姪っ子のガイドで、青山通りでコーヒーを飲みました。“STARBUCKS”(スターバックス)という外資系のコーヒーショップです。セルフサービスの店です。私はカプチーノにしました。280円。これがすごくおいしい。コーヒーってこんなにおいしいものだったのかとこれもびっくりです。コーヒーは紙コップに入っていて、そのコップはアメリカのシカゴで製造云々と英語でプリントされていました。
■コーヒーを飲みながらいろんな話をして、デビッド・ヘルフゴットのピアノ・リサイタルの話になりました。彼は映画『シャイン』のモデルです。演奏活動をしていることを知らなかったのでまたまたびっくり仰天です。彼はてんかん、精神疾患があります。彼のピアノはきく人のインスピレーションに響くものがあってすばらしい。6月に彼は東京でリサイタルをします。チケットを買ってくれているので彼の演奏がきけることになって感激しています。ラフマニノフのピアノ協奏曲第3番のCDは日本でも発売されています。
■青山通りとの交差点近くの表参道に“AOYAMA DIAMOND HALL”という建物があります。最近できたものかな。御影石の壁に外国の人が人待ち顔でもたれていて、ここはニューヨークか?とはっとしました。
■ここまで今日はプライベートなことをたくさん書きました。でも、今日は、そうしていながらもずっと金曜日の講義のことを考えていました。
■金曜日から障害児教育の核心の講義が始まりました。金曜日は選択講義で、「発達障害の診断と療育」と「自閉症の教育と医療との連携」のどちらかを選びます。私は前者を選択しました。講師は筑波技術短期大学教授の石川知子先生です。講義のテーマは発達障害全般を含むものと受け取られますが、実際は「広汎性発達障害(=自閉症)」が中心です。
■石川先生は医学博士で、日本に2つしかない小児精神科医療施設の1つ、梅が丘病院で診察もされています。(もう1つは三重県のあすなろ学園です)ドクターの言葉は「先生」をしている私のそれとはちがいます。(行政の人はまたちがいます。)石川先生はそのちがいに共感をもって話をされていました。
■「講義要旨」から引用します。(石川先生のレジメは27ページもあります。)
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■近代医学の進歩により、身体疾患については精緻な自然科学的診断技法が開発されていますが、精神疾患の診断については、残念ながら未だに臨床という経験科学に頼らざるを得ないのが現状です。児童青年精神医学で発達障害とされるものには、精神遅滞、特異的発達障害、広汎性発達障害(=自閉症)の三つがあります。(中略)過半数に精神遅滞が併存する広汎性発達障害は、発生機序も未だに解明されていませんが、人間存在の根源をなすものについての示唆を与えてくれる興味深い障害です。特殊教育の場でも対応が難しいといわれます。それゆえに、講義は広汎性発達障害に重点をおこうと思います。ひとりひとりの子どもに、より適切な教育や指導を行うためには、この障害についての医学的診断や障害にかんする的確な知識が不可欠です。講義では多数の症例を提示し、詳細な解説を加え、障害の本質についての理解を深めて頂いた上で、教育や訓練上の諸問題を考察します。その他の障害(LD、てんかん等)との関連、長期予後(青年期や成人期の社会適応の問題)、薬物療法等についても触れるつもりです。
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■自閉症の定義はICD(WHOによる『国際疾病分類』)とDSM(アメリカ精神医学会による『精神障害に診断ならびに統計のための手引書』)がレジメにあります。石川先生はそれらの定義を「散文的な叙述」と言われました。また、その診断をする際の判断について「コンテクストに合っている」という表現もされました。「コンテクスト context」には「文脈」という訳語があります。でも、これはひょっとしたら日本語にはない概念かも知れません。「文脈」という訳語は誤解が生じるかも知れません。人は自分の体験や経験の上に立ってその時その時の理解なり判断をします。その判断の流れがcontextではないでしょうか。話をしていて「ああ、やっとわかった」と思うときがあります。「腑に落ちる」という表現の仕方もあるでしょう。それはcontextとして理解し得たということだと思います。
■ドクターのcontextと「先生」のcontextはニアミスの連続でしょうか。でも、石川先生の講義はそのニアミスを限りなく近づける前向きなものでした。親のcontextもきちんと考えてみえます。
■クレヨンハウスのcontext、カワイのピアノのcontext、“STARBUCKS”のcontext、“AOYAMA DIAMOND HALL”のcontext、デビッド・ヘルフゴットのピアノ・リサイタルのcontext、今日出会った驚きのそれぞれはそれぞれのcontextがあるが故の驚きだったと思います。簡単にいうとカルチャーショックかな。