月別アーカイブ: 2002年3月

エレキギターが呼んでいる

■近くの畑では麦の葉が青々として春風にそよいでいます。麦の作付面積はたぶん増えています。6月の麦秋が楽しみです。
■Dr. K Project(ドクターK プロジェクト)は徳武弘文が率いるバンドです。1951年生まれの彼はベンチャーズ・トリビュートを主催し、そのステージがNHKで放送されました。その番組を偶然ビデオに録画してもう何回も見ています。
■私がベンチャーズと出会ったのは1970年、中学校1年のときでした。昼食時間の校内放送ですごくごきげんな音楽を耳にして中3階の放送室に走って曲名をたずねたところ、それがベンチャーズの『10番街の殺人』でした。エレキギターとの出会いでした。のちに放送委員となってからは自分の好みで『10 番街の殺人』ばかりかけていました。
■でも、エレキギターを実際に触ったのは30年後のこの3月12日のことでした。アンプにつなぎませんでしたが、ハンドメイドのエレキはネックの感触もよくてボディもよく響きました。
■音楽療法士の大滝昌之はセッションにエレキギターを使います。彼はコードだけでなくベースや単音を巧みに弾き分けて1つ1つの音を意図通りコントロールしています。あるときはクライアントの太鼓の音に寄り添い意味付けをしてクライアントの全人格をあるがままに認め、あるときは間をおいてクライアントの主体的な働きかけを促し、あるときは対等のやりとりを求めて思い切って歩み寄る…それはマジックといえるかも知れません。エレキギターはそれに応え得る楽器です。
■ベンチャーズ・トリビュートのビデオを毎日見るようになりました。番組の進行役萩原健太はこんなことを言っています。「もしかしたら今本物のベンチャーズを観に行くよりもベンチャーズらしい音がたくさん今日のステージにつまっていたんじゃないかと思います…」 そうなんです。私はこの番組を録画してベンチャーズのCDをすぐレンタルしましたが、この番組ほどの魅力は感じませんでした。どうしてなんだろう…。Dr.K Projectの音はたいへん洗練されています。楽器のポテンシャルも飛躍的に向上しているはずです。演奏テクニックも開発が進んで、ベンチャーズの頃のテクニックはもう当たり前のものとしてプレイヤーの体の一部となっていることでしょう。そんな彼らがベンチャーズのもっともベンチャーズらしい音を浮き彫りにしていてもおかしくありません。私もオリジナルより魅力を感じています。
■先月末、B’zの松本孝弘のソロ・アルバム『華』が出ました。「ミュージック・ステーション」のテーマソング、胡弓との競演、『ロミオとジュリエット』、ジミ・ヘンドリックスのカヴァー、ジャズギターといろんな曲が入っています。洗練されたテクニックと音、篠崎ストリングスのバックも演奏のクオリティーを高いものにしています。この1枚でエレキギターの多彩な表現が楽しめる!
■エレキギターからバイオリンに“転向”したオーケストラ仲間がいますが、私は逆の道をたどるのかも知れない。1週間前、椎間板ヘルニアが私から自由を奪って、人生、やりたいことはやっておこうと思った次第…

ピアノ・ピアノ・ピアノ

■NHK-TVのアニメ「くまの子ウーフ」の音楽がいいなと思っていたら、なんと、加羽沢美濃の作曲&演奏でした。彼女のピアノはとにかく音がきれいです。そして、アレンジも音楽の醍醐味をたっぷり盛り込んだ出色の作品です。彼女の演奏をきいていると、ほんとにピアノが好きなんだということが伝わってきます。
■先月、勤務校のグランドピアノを調律してもらいました。そのピアノは1年前に私がカワイ楽器の浜松工場で試弾して決めたピアノです。狭い音楽室で使うピアノです。鳴り過ぎず、弾き手の意図に応えてくれるピアノを探して浜松に行きました。
■昨年度の5月から2か月間、私は神奈川県横須賀市の国立特殊教育総合研究所に知的障害教育の研修に行っていました。その間、東京のピアノのショールームを渡り歩いていいピアノを探しました。いろんなところでいろんなピアノに触れることが出来ました。といっても100万円クラスのいちばん小さなグランドピアノたちです。2m足らずのサイズでフルコンサートの音を求めるのは無理です。でも、グランドピアノのいちばんのメリットは弾き手の意図を音にしやすいアクションにあります。青山のカワイ楽器のショールームで出会ったカワイのいちばん小さなRX-1Aは、華やかな音と適度な音量、そして鍵盤の感触とタッチのダイレクト感がとてもよくてこれしかないと思いました。でも、浜松の工場で用意された3台のRX-1Aの中には青山で出会ったようなピアノはありませんでした。1台は鳴りませんでした。1台は華やかな音でしたが鋭過ぎて私の耳には痛いほとでした。あと1台は音のヌケがいまひとつでしたが和音がまとまってきこえました。これにしました。
■勤務先に届いたピアノを弾いてびっくりしました。鍵盤のタッチはバラバラ、右手でいちばんよく使う1オクターブがなぜか鳴らない。番号を確かめても私が選んだピアノにまちがいありません。私はがく然としました。いったいどうしたというのだろう。鍵盤のタッチはその翌日から徐々に落ち着き始めました。おそらく輸送中の振動でアクションが一時的に不具合が出たのでしょう。でも、音は相変わらずです。鳴りません。私は100万円という税金の使い道を誤ったのか…
■ところが、今回、1年後の調律で生まれ変わりました。鳴らなかった1オクターブが鳴ることはもちろん、ほどほどの華やかさと迷いのないクリアな和音、さすがに最低音部は鳴りませんがタッチに素直に反応します。ホッとしました。ほんとにうれしかった!
■今回の卒業式では私もピアノを弾くことになり、バッハとモーツァルト、フォーレを練習しました。日曜日、音楽室のグランドピアノを弾いているといつの間にか1時間2時間と過ぎて行きました。
■カワイ楽器の浜松工場ではフルコンサートのグランドピアノに触れる機会がありました。1フロアの小さなホールに置かれたフルコンサートはタングステンライトの下で、まるで生きているかのような生々しさがありました。これはただごとではない、そう思いました。「どうぞ、弾いてください」と言われてそっと鍵盤に触れると私の指は撥ね返されました。タッチはとてつもなく重い。そしてどこか荒々しい。野生の動物に触れたらこんな感じではないかと思いました。私はフルコンサートに息づかいを感じるほどでした。私には弾けない。
■ピアノの歴史は長いように思われますが、今、音楽ホールに置かれているようなフルコンサートは現代生まれです。工業の発達なしには生まれ得なかったピアノです。フルコンサートは同時代の、コンテンポラリーな楽器なのです。ある意味で文化そのものです。そして、フルコンサートを弾きこなすピアニストはほんとに特別な人たちなのだと思います。