日別アーカイブ: 2000-06-27

久里浜だより28

■こちらでは三宅島が噴火しそうで、朝からヘリが飛び交って臨場感がありました。
■みなさんお元気ですか? 私は先週夜更かしが続いて疲労困憊、土曜日は昼の2時まで寝たり起きたりで、あとは本を読んで過ごしました。日曜日はちょっと元気が戻ったので銀座のアンティークカメラ店を回ったり、楽器店で楽器やCDを見たりしました。お昼は贅沢をして、クレヨンハウスの有機野菜たっぷりのバイキングを山盛り2皿食べて大満足でした。クレヨンハウスでは、町田市のすみれ会館の音楽療法のセッションで使っていた鐘(タンバリンについている小さな円盤状の鐘)を見つけました。ドイツ製、2枚で1セット、なんと4800円! ボーナスが出たら買って帰ります。勤務校の授業で使えるかな、と思います。
■さて、講義は昨日今日で4コマありました。昨日は筑波大学教授池田由紀江先生の『ダウン症の特性と対応』、奈良県立西の京養護学校教頭小原信先生の『養護学校における教育相談の役割』、今日は千葉大学附属養護学校副校長三田一夫先生の『日常生活の指導』、そして午後は埼玉県立寄居養護学校教諭土野研治先生の『演習:音楽の指導』でした。(土野先生の「土」はJISに入ってない字で、「土」の右上に点を一つつけた字です)
■いろいろ思うことがありました。が、今日の午後、土野先生の音楽の講義は私にとって最高の時間でした。こんな講義は丸々1日とってほしいものです。
■ノートは…36ページ取りましたが、そのままだとわかりにくいので私の感想をお伝えします。
■使った曲は『大きなくりの木の下で』、『小さな世界』(ディズニーの『It’s a Smoll World』)、『きらきら星』の3曲と、ペンタトニックの即興とリズム伴奏的な即興でした。もっといろいろな曲が出るかな、と思っていたのですがこれだけでした。養護学校でのマン・ツー・マンの授業(音楽療法のセッション)では、やはりピアノの即興と『大きな古時計』でした。特別な曲はありませんでした。
■しかし、子どもたちと土野先生とのやりとりは、ビデオですが、これはすごかったです。音楽で子どもたちとこんなにコミュニケーションができるものかと…音楽がきちんと土野先生の言葉になっているのです。子どもの動きを引き出したり、誘ったり、フェイントをかけたり、元気づけたり…。
■土野先生のピアノの演奏技術はもちろんすごいものです。今日の講義でも『大きなくりの木の下で』の前奏で呆気にとられてみんなの歌いだしが遅れたくらいです。どう「すごい」かというと、シンプルだけど雄弁で色彩感があるのです。右手は主にメロディーを弾いていますが、左手は複雑に動いて、右手と左手のたった2音の組み合わせにもかかわらず、曲の流れの中で一つ一つの場面を見せてくれるのです。これは和声進行の理論的な要素が半分です。
■でも、その前に、土野先生と子どもたちとのかかわり方が大事です。その上でテンポや音の大きさを自在に揺らすことによって子どもたちへの働きかけを音で表現する土野先生のセンスが生きるのです。センスとは音楽の感じ方の幅の広さと柔軟さです。セッションのビデオでは一瞬一瞬が勝負でした。子どもの動きに応じてテンポや音の大きさはもちろんのこと、使う楽器や空間の使い方をどんどん変えていきます。
■ビデオ(知的障害養護学校小学部)の自傷の場面はショッキングでした。でも、音楽室でセッションが始まると、その子の自傷行為がなくなるどころか、音楽を媒体として土野先生といろんなやりとりができるのです。それは彼の主体的な動きだったと感じました。
■土野先生は音楽大学の声楽科を卒業。肢体不自由の養護学校で11年、宇佐川先生のもとで音楽療法など長期研修をされて、その後知的障害の養護学校で10年、そして今は病弱の養護学校に勤務されています。ビデオは知的障害の養護学校の記録でしたが、子どもたちの体の使い方を重力との関係でとらえるなど、知的障害の養護学校の子どもはよく体が動くけど決してうまく使っているわけではないと、肢体不自由の子どもたちのとらえ方から何度か指摘をされました。私らは知的障害教育コースですから土野先生もそのあたりを意識されてのことでしょう。
■文献紹介のプリントでは私が好きな本も何冊か上がっていたのでちょとうれしくなりました。直接音楽療法の本ではありません。井上直幸の『ピアノ演奏法』(久里浜に来るとき私も持って来た)、畑中良輔の『演奏家的演奏家論』(学生の頃読んだなつかしい本)、長田弘の『黙されたことば』(詩集)、そしてグレン・グールドやジャクリーヌ・デュ・プレの演奏です。
■土野先生は7月8日に神奈川県藤沢市で講演をされるとのことですが、この日は淑徳大学の宇佐川先生の音楽療法のセッションを見せてもらうことになったので行けません。土野先生は、あと、8月29日に広島で講演されるとのことです。これは広島大学の若尾先生の音楽療法の研究会かも知れません。
■最後に、土野先生の著書を持ってきているのでサインをしていただきました。がんばろう、と思いました。
■土野先生の講義の内容はきちんとまとめたいと思います。時間がかかりますが、ほしい方は連絡してください。夏休みになるかも知れませんが。