松本侑子『みすゞと雅輔』

昨日、松本侑子著『みすゞと雅輔』(新潮社 2017)が届いてパラパラと拾い読みをすると文化史のような気配があって目が吸い込まれるように読み始めていました。私は金子みすゞの詩は有名なものしか知らず、また、自殺したことも初めて知りました。実弟の上山雅輔に至ってはその名前を全く知りませんでした。果たして、近代文学に関心を寄せているので当時の文芸の状況が描かれていることを興味深く読んだ次第です。帯の言葉が本書のそうした記述をよく表していると思います。「大正デモクラシーにめざめ 「赤い鳥」と童謡を愛し 白秋、八十にあこがれ みすゞの詩に、心ふるえる。 昭和モダンの東京 菊池寛の文藝春秋社で 古川ロッパのもと、働く。 みすゞは、自殺 雅輔は、自死遺族に 時代は、昭和の戦争へ。 弟の胸に残る みすゞの瞳の輝き 忘れえぬ青春の日々……」 上山雅輔は「膨大な日記」を残しており、本書は「弟の目を通して描く」とあります。描かれているのは、しかし、金子みすずと上山雅輔、ふたりに近しい人たちだけではありません。日本の近代に生きた人たちの姿が浮かび上がってきているように思いました。著者は本書を「フィクション」と書いていますが限りなく忠実な史実に近いのではないかと思います。少なくない文人たちが戦争を礼賛する作品を世に出したことも史実として淡々と記述されておりそれが金子みすゞの創作に光を当てています。それにしても日本の近代はどいういう時代だったのか。近代は今も続いているのだろうかと考えてしまいます。

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