カミュ『シーシュポスの神話』

カミュの『ペスト』が売れているとのこと。新型コロナウィルスの感染拡大がその背景にあるらしい。私も再び『ペスト』を紐解くことを考えましたがどこか文脈が異なるように思われて本業に時間を注ぐようにしています。そんな中、ツィッターで毎日新聞書評面「今日の本棚」の記事が目に留まりました。カミュの『シーシュポスの神話』の文字があったからです。「この3冊 向谷地生良・選 不確かな時代を生きる ①シーシュポスの神話(カミュ) ②オープンダイアローグとは何か(斎藤環) ③ネガティブ・ケイパビリティ 答えのない事態に耐える力(帚木蓬生)」です。私は3冊とも読んたことがあってどれもが心に残っています。とりわけ『シーシュポスの神話』は20歳の頃繰り返して読んだ本です。神の怒りをかって巨石を山の頂上に押し上げることを永遠に繰り返すことになりますがいちばんの苦しみは手持ち無沙汰で山を下るときに思考することであったという下りは衝撃的でした。不条理を背負っているゆえに考える時間はよりシーシュポスを更に苦しめたということか。「われ思う、ゆえにわれあり」や「人間は考える葦である」など、人は思考することでその生が満たされると言われてきたのではなかったのかと私は訝しく思ったものでした。答えのないことがたくさんあることを身をもって知り始めていた私はその物語に底知れぬ恐ろしさとともにリアリティを感じていたのだと思います。帚木蓬生の『ネガティブ・ケイパビリティ 答えのない事態に耐える力』は答えならぬ解決のない事態が描かれています。

先週はまた中井久夫著『西洋精神医学背景史』(みすず書房 1999)が届きました。題名のとおりこれは歴史書であると思いました。人間の歴史について書かれた本です。人間のあらゆる営みを描くことで精神医学なるものが浮き彫りされていきます。私にはなかなか理解が難しいところがありますが私の目を捉えて離さない記述もまた随所にあります。NHKのドラマ「心の傷を癒すとは」の主人公は高校の頃から中井久夫の著書に読みふけります。どの本かはわかりませんが『西洋精神医学背景史』と同じ文脈で書かれていることと思います。私がこの本で得るものは知恵ではないのかと、そう思います。

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