日別アーカイブ: 2020-03-01

最後の授業

先週の水曜から木曜にかけて長野県伊那市に行って小学校を訪問していました。その帰路、ステップワゴンのラジオで3月2日からの臨時休校の第一報を知って途端に慌ただしくなりました。翌28日金曜日の授業が最後の授業となったわけです。学年末考査が終わったら教科書の他にも授業で取り上げたい作品をいくつか考えていたのですがいきなりの最後の授業です。私は18歳のとき出会って今もいちばん身近に思っている村松英子の詩「欲しい」を取り上げました。

欲しい

私は欲しい
視界から瞬時に消える
かもめの胸を

私は欲しい
ひきがねにかけられた熱い指を
丹精の薔薇を切る園丁の瞳を
岸壁に傷つく海のわき腹を

身をこがす
激しい愛の魔術が
嘘のように白く解ける一瞬のその清らかな顔を
私は欲しい

ふたたび
私はのぞまない
ただいちど
ひとが出会う
死の刹那
その心を
私は欲しい

村松英子1971『一角獣』より

「丹精の薔薇を切る園丁の瞳を」という一行に目が釘付けになりました。齢80に届かんとする風情の園丁が思い浮かんで見事に咲いた丹精の薔薇を見つめるそのまなざしに高校を出たばかりのとき惹かれたわけで今も同じです。

アイキャッチ画像は先週2月27日木曜日、伊那市から望む仙丈ケ岳にかかる雲の空です。