日別アーカイブ: 2023-07-21

木地雅映子『氷の海のガレオン』

私が木地雅映子の本を初めて読んだのは『ねこの小児科医ローベルト』でした。この本が出版されたのが2019年でほどなく取り寄せました。リアリティが残るねこの絵とローベルトという名前に惹かれました。肝心の物語はというと名は体を表すのことわざ通りで、ねこの小児科医がバイクに乗って往診に駆けつけるなどというあり得ない設定なのに不思議なリアリティがあって、そして、結末は・・・しっとりとした読了感でした。同僚にも薦めました。

今月、木地雅映子の新著が出るというので予約して取り寄せたのは『ステイホーム』です。小説や物語を読むのは久しぶりで読書の時間の感覚に浸ることができましたが不登校といわれる子どもたちと日々かかわるところで仕事をしているので一筋縄ではいかないいろんなことを考えながらの読書となりました。「不登校とコロナ」という図式は学校の様々な側面、課題を浮き彫りにしました。「コロナがきっかけで不登校が増えた」のは事実としても学校が再開しても「学校に戻らない子どもたち」は今もいてそれはコロナが登校しないきっかけであったとしてもその理由(わけ)の根っこはもっと深いところにあるのではないか。木地雅映子はコロナが浮き彫りにした細く目立たないが奥深い亀裂の中にいる子ども(たち)を描いている。「コロナのおかげで学校に行かなくてもよくなった」と考えるのは主人公るるこだけではないと考えるのが教育に携わる者の良心というものではないのか。るるこに自分を重ねる読者は少なくないと思います。

今回読んだ『氷の海のガレオン』は『ねこの小児科医ローベルト』の出版の少し前に購入したことが挟んであった伝票からわかりましたがこれまで読まずに積読のままでした。ある小児精神科医のツイートで「この本を初めて読んだときは衝撃的だった」旨の書き込みがあってAmazonのサイトで検索したところすでに購入済で積読だったことがわかった次第です。絶版になっていて今ではおいそれとは買えないほどに高騰していました。

『氷の海のガレオン』の主人公斉木杉子に自分を重ねる読者もまた少なくないと思っています。るるこも杉子も学ぶことから距離を置いているのではありません。学校から距離を置きたいと思っています。それは身体感覚としてのことと読めます。『氷の海のガレオン』の読者はそこに自分を重ねて、身体を重ねるように共感するのだと思います。

『氷の海のガレオン』の初版は1994年、私の手元にある文庫版は初版に加筆等されて2006に出版されたものです。『ステイホーム』は今月2023年7月です。30年近くの年月が過ぎて不登校という言葉で表される状況の何がどう変わってきたのか、変わっていないのか、その核心は何なのか。慧眼と対話が必要なのでしょう。

それにしても「氷の海のガレオン」という表題はなんという壮絶な光景を想起させることか。