日別アーカイブ: 2020-02-10

当事者研究の文脈

先週の土曜日、国際障害者年連続シンポジウムに行ってきました。会場は立命館大学衣笠キャンパスの創思館でした。シンポジウムのテーマは「自立生活運動・オープンダイアローグ・当事者研究」で、熊谷晋一郎先生の基調講演は当事者研究についてその構造の核心を教えていただいたと思いました。キーワードは「当事者研究、当事者活動、内側のダイバーシティ、ドーナッツ、トラウマ、虐待経験、身体、物語、依存、依存症自助グループ、言いっぱなし聴きっぱなしの対話、対話概念の拡張、ライフスタイルの再構築」だったでしょうか。当事者同士の活動の行き詰まりは何も障害や病気がある人たちに限ったことではなく社会学の講義を聴いているようでもありました。「言いっぱなし聴きっぱなしの対話」の発見とそれを「対話概念の拡張」という言葉で概念化するあたりは絶妙だと思いました。そこに至るまでの内側のダイバーシティの「歪み」の存在をきちんと認めるスタンスもまた素晴らしい。言葉を発見する研究そのものだと思いました。当事者研究については本で読んだことがありますがこうして直接その場で話を聴くことでキーワードの一つでもある「身体」が納得する感覚を実感したと思っています。

先月1月12日(日)の東京大学大学院総合文化研究所・教養学部附属 共生のための国際哲学研究センター(UTCP:The University of Tokyo Center for Philosophy)の「哲学×デザイン プロジェクト19 障壁のある人生をどのように生きるのか」のことを思い出しました。たいへんフランクで開かれた空間でした。「私、ワンオペでやってます」「だいたい6時までには終わります」「誰からしゃべってもらいますか?」というセンター長の肩ひじ張らずの語りにどのスピーカーもどうしてもアドリブが入ってしまうといったしゃべりで実に面白かった。その周りでは就学前くらいの子どもたちが走り回る。前の壁全体ががホワイトボードになっていて意見や感想を書くときには子どもたちが思いっきり落書きを始めて私はそちらの方ばかり見てしまいました。肩の力が抜けるとはこういうことかとこれも身体が納得しました。こうしたイベントは私が住む地域では知らないだけかもしれませんが開催されたという記憶がありません。そもそもイベントなのです。研修会でも研究会でもなくイベントです。当事者も研究者もいっしょに来た家族や赤ちゃんも国会議員もみんなごちゃまぜなのに、それゆえなのか、それだからこそなのか、風通しの良い開かれた空間が広がる。UTCPのウェブサイトのポリシー(例えばこちら)を読むとそれがよくわかります。自分たちで自分たちのことを決めていこうとすることはもちろん簡単ではない。でも、そうしていかなければならない場面はたくさんある。そうした場面のまさに当事者として自分がどう居るのか、未知のことだけどわくわくしてしまうのではないかと思う。

障壁のある人生をどのように生きるのか?(1) * 障壁のある人生をどのように生きるのか?(2)

アイキャッチ画像はシンポジウム当日の京都の空です。