シェリングのバッハ

先日、ふと思い出したことがあってヘンリク・シェリングのバッハを久しぶりに聴きました。無伴奏ソナタ&パルティータ、1955年録音のCBSソニー盤です。シェリングが奏する同曲は1967年録音のグラモフォン盤との2つがあって、グールドが弾くバッハ「ゴールドベルク変奏曲」の2回の録音と似た特徴があって興味深い。67年盤をネットで試聴すると聴けば聴くほどに聴き込んでしまい、このほど67年のグラモフォン盤の輸入盤を購入しました。私がこの演奏を知ったのは大学生のときで、この曲に限らずヴァイオリンの音のスタンダードとして私に刷り込みをしてしまった演奏です。55年盤はシェリング37歳、67年盤は49歳のときの録音で、67年盤を「円熟」と評する向きも多いのですが、私には「闊達」という言葉の方が似つかわしく思います。録音も素晴らしくて音の輝きと芯のある透明感がたまらない。翼のあるバッハです。バッハもきっとこんな演奏を望んでいるにちがいありません。学生オーケストラの先輩で若くして大阪フィルのサブ・コンサートマスターに就任したヴァイオリニストがシェリングのバッハを「哲学が合っている」と語っていました。そういう彼はパガニーニの名手です。自在に奏でる彼のパガニーニもまたシェリングのバッハと同じ文脈、「哲学が合っている」のだと思います。
シェリングの67年盤と同じドイツ・グラモフォンのシリーズでディートリッヒ・フィッシャーディースカウが歌うシューマンの歌曲集を見つけて、送料が無料になることもあっていっしょに購入しました。「詩人の恋」などフィッシャーディースカウが歌うシューマンはやはり学生の頃、出始めた輸入盤を買って聴いていました。これもただただ懐かしい演奏です。
ドラマ「白州次郎」は煙草を吸うシーンが多い。ほんとに多い。放送時間の半分以上は誰かが煙草を吸っているのではないかと思うくらい多い。GHQも然り。そんなテレビの画面は見ているだけで息苦しくなります。しかし、次郎も正子も煙草を吸っていたのに長生きをしました。小林秀雄もそうでした。喫煙率が下がっているのに肺がんは年々増加しているのはなぜか。空気のきれいな地方で煙草の煙とはおよそ縁のない暮らしの女性にも肺がんが増えているようで、胸腔鏡手術の映像でニコチンの沈着が肺の外側からはっきりわかるところを見ているだけに現代社会の知られざる部分の怖さを考えてしまいます。

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