日別アーカイブ: 2007-09-29

ジョン・ルイスのバッハを聴きながら

ミャンマーで日本人カメラマンが射殺されたことが国際的に大きく取り上げられてせめてもの弔いだと思っています。紛争地域で取材するカメラマンでいちばん有名なのはロバート・キャパだろうか。スペイン内乱中の「崩れ落ちる兵士」で有名になりました。戦争の写真がマスコミで大きく取り上げられたのはベトナム戦争でした。当時、戦争の取材に大きな制限はなかったようで、最前線や兵士の素顔の映像が送られてきました。凄惨な映像もたくさんありましたが、酒井淑夫の「より良きころの夢」はたいへん印象的な1枚でした。豪雨の中、雨具を纏って眠りにつく兵士の姿は心身を憔悴し尽くす戦争の非人間性を如実に伝えています。この写真で彼はピュリツァー賞を受賞しています。
戦場のカメラマンたちの横顔は石川文洋の『戦場カメラマン』(朝日文庫 1986)に詳しい。カバーに開高健がこう書いている。「石川文洋君は・・・つねに右の眼は熱く、左の眼は冷徹でありつづけた。」言い得て妙だ。石川文洋の本は読み応えがあります。インドシナの政情分析が現地を知る彼ならではの記述であることに加え、ヒューマニズムにしっかり支えられた彼の眼差しが読む人を惹き付けるのだ。沢田教一と一ノ瀬泰造、外国人ジャーナリストとのエピソードはたいへん興味深い。
昼過ぎにCDと本が届きました。本は渡部さとる『旅するカメラ2』(えい文庫 2004)です。彼もまた文筆家で繰り返し読んでしまいます。この中でFUJIFILMのコンパクトカメラ FUJI HD-Mが取り上げられています。HDのネーミングの通り、ハードな使用に耐える防水カメラです。このカメラは私も19年前に新品で買って今も時々使っています。距離計は目測ですが、不思議とピントをはずしたことがありません。ISOはDXシステムではなく手動で設定するので制限はあるものの露出補正もできます。渡部さとるはパリ・ダカールラリーを撮っていたカメラマンからこのカメラを紹介されたと書いています。私もプロカメラマンから「水深3メートルはいけるよ。距離計は目測だけどね。」と教えてもらって買いました。でも、いちばんの強みはレンズかも知れません。FUJINONの名に違わない描写は特筆すべきものがあります。『旅するカメラ』の作例でもベルビアとの相性もよく際立ったクリアな色調がわかります。ところで、水中のピントの目測での合わせ方ですが、水中で見た目通りなのです。そう言われてみればそうだと思うのですが、陸で考えているとなかなか腑に落ちなかったことを思い出します。
本といっしょに届いたCDはジョン・ルイスのバッハ「平均律」VOL.2〜4の3枚です。VOL.1の録音は1984年で、CDを買ったのははやりその頃だと思います。それから20年、CDの価格も半額以下となっていることがわかって買いそろえた次第です。音楽を楽しみたいとき、うれしいことがあったとき、疲れ切ったとき、いつでも聴けるのはジョン・ルイスの「平均律」です。「ゴールドベルグ変奏曲」もグールドとともにキース・ジャレットのハープシコードが好きです。ジャズピアニストが弾くバッハがこんなにも魅力的なのはどうしてだろうと思うのだ。
夜は映画「ミス・ポター」を観に行きました。ビアトリクス・ポターはピーターラビットの生みの親です。映画館の広い銀幕に映し出されるイギリスの湖水地方の美しさは圧巻ですが、彩度を抑えた色調は好感がもてました。フィルムはFUJIFILMでした。あと、音楽の音色がすごくきれいで、この映画館のオーディオシステムはこんな音だったのかと自分の耳を疑うくらいアコースティックな印象でした。