ファジル・サイのバッハ

ミュージック・ケアで使うモーツァルトの「トルコ行進曲」に端を発していろいろな演奏を聴いていてファジル・サイと出会いました。彼が弾く「Alla Turca Jazz (Fantasia from the piano sonata in A major K331)」は直訳すると「トルコ風ジャズ」で、「Fantasia」とありますがモーツァルトのK331ピアノソナタへのオマージュといった風合いが伝わってきます。ジャズとオリジナルを自在に行ったり来たりしているかのようで「ジャズ風」とはちがう。一見格闘技のようでもある。一人二役の演技のようでもある。とにかく面白い。そんなファジル・サイのがバッハを弾くとどんな演奏になるのか。興味津々でCDの到着を待っていました。フランス組曲やイタリア組曲、珍しいところでは無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番から「シャコンヌ」が収録されています。これが意外にも古典曲の演奏の王道を行くような印象でした。でも、彼らしさはきちんと出しています。まず、音が明るく輝き軽妙であるようでいて1音1音が見えるようで存在感がある。そして、楽譜に忠実に弾きつつ、バッハの意図を再構成して音楽の醍醐味として聴かせてくれているかのようだ。ある意味しがらみのない演奏といえるかもしれない。バッハはきっとこんな弾き方をしたにちがいないと思ってしまう。すごく今日的な演奏なのに不思議なものです。

ところで、モーツァルトの「トルコ行進曲」の手持ちの演奏を聴き比べて面白いことがわかってきました。単純に演奏時間のことです。

マリア・ジョアオ・ピリス 4分31秒

グレン・グールド 4分07秒

イェネー・ヤンドー 3分43秒

杉谷昭子 3分39秒

イングリット・ヘブラー 3分33秒

スタニスラフ・ブーニン 3分05秒

ファジル・サイ 2分41秒

ファジル・サイ(ジャズ) 1分55秒

私はグールドが最長時間記録保持者とずっと思い込んでいましたがピリスが群を抜いて遅い演奏でした。演奏そのものに触れると何時間も言葉をひねってしまいそうでやめますが、高校生のときはこんなふうに聴き比べて演奏者の当て合いなどをよくしました。音楽室のパート練習室にラジカセを持ち込んで男ばかりでああでもないこうでもないとやるのは楽しいものでした。

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