日別アーカイブ: 2011-07-22

文体

女子サッカー・ワールドカップで優勝した日本のキャプテン、澤選手の「日本のメディアが報じない」メッセージがツィッターなどで話題になっているようです。その内容はナショナルチームのリーダーたる言葉に溢れていて力強いメッセージを与えてくれる素晴らしいものです。これは日本語から英語に翻訳されて再び日本語に翻訳された記事です。澤選手がどんな言葉で話をしたか、そのオリジナルはわかりませんが、私はこの中の英訳に英語らしい言い回しやリズムを感じて“名訳”だと思っています。英語圏では同じことを言うときにどれだけ多くの言い回しを使うことができるかということがその人の知性を量るひとつの指標と聞いたことがあります。この英訳も素晴らしいと思う。
日本文学の文体ということでは、私は辻邦生に心酔した時期があり、それが高校から大学の頃のことなので今では懐かしさも相俟ってなかなかページも進みません。先週末は書店で加藤則芳著『メインの森をめざして アパラチアン・トレイル3500キロを歩く』(平凡社 2011)を開いて、また別の意味で文体でやられました。滔々と澱みなく言葉が連なるその文体は同じ時期に同じ感覚をもったライターのものであるかのように思えました。奥書をみると著者は私より8歳上で、私が憧れていたビートルズの年代とわかって納得するところがありました。全640ページに及ぶ「紀行文」はどこを開いても均一のほどよい緻密さがあり、新鮮だ。アパラチアン・トレイルは山を分け入るわけだがこんなにも人に会うのかと驚くほどのエピソードが続く。それは今のところ私が歩め得なかった人生だけに一層惹かれる。