言葉、声と礼儀

辻邦生原作のCD『西行花伝』(ANY 2007)があることは以前から知っていましたが、そろそろ廃盤になるのではと心配になって購入しました。辻邦生の語りが声で読まれること自体興味津々なのですが、音源はNHKのラジオドラマとのことで期待通りの質の高さでした。穏やかな中にも芯が貫く強靭な意志を彷彿とさせる語りです。効果音にはバッハの「ゴールトベルク」などを使い、荘厳な構造感があります。年々硬派の本を読む時間も少なくなってきた折、一節だけでもこのような朗読を聴くことで小説が本来持っている斬新なものへの引力を感じて自分自身の内面が充実するように思えてきます。
朗読といえばiPhoneのアプリ「朗読少女」が思いの外聴かせてくれます。いつの間にかストアのコンテンツも増えていました。声は好みがあると思いますが、誰の声にも自分らしさがあるはずです。自分の語りは大切です。
声といえば、先日のNHK-TV「SONGS」で徳永英明といっしょに「翼をください」を歌った合唱団の声を聴いて「これは」と思い、眼鏡をかけて画面を見直しました。声は杉並児童合唱団です。中学生から高校生の女の子ばかりで、他の合唱団との合同でしたが、やはり杉並児童合唱団の声でした。杉並児童合唱団の声は聴いてすぐにわかります。私が知る30年前と変わらない声です。美しい声です。
今朝はNHKの「おひさま」を1週間分しっかり観てなんだか満ち足りた気分になりました。そうか、そうだよな、と意外な展開にも納得してしまいました。主人公が師範学校に進んで教師となる設定も学校の現場を知っているだけに身近に感じます。その中で、富国強兵を目指していたとはいえ、当時の日本が教育にいかに多くの投資を行っていたことかがわかるシーンがよく出てきます。制作側も意図していないことだと思いますが、女学校や師範学校の映像そのものが当時の国策を物語っています。それはまた、教育の力がいかに大きいものであるかを示しているのです。
また、「おひさま」でよくみられるシーンに登場人物の言葉遣いのていねいさがあります。主人公が真っ直ぐ父を見て「行ってまいります」と言い、礼をします。そんな礼儀作法の折り目切り目が実に心地いいのです。これはミュージック・ケアの核心でもあります。動作と声、音、音楽との感覚上の統合が人となりを形づくり、外界への確かなメッセージとなる。これは、でも、少し前まで当たり前のことだったはずではないでしょうか。だから観やすい番組なのでしょう。きっと。

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