『魔法使いの伝記』

佐野美津男著(小峰書店 てのり文庫 1989)のこの本をアマゾンのマーケットプレイスで見つけて取り寄せました。ハードカバーもこの文庫もすでに絶版になっていますが根強い人気がある本です。私も時々読みたくなりながらも前に買ったハードカバーは手放したので思い出すだけとなっていて実に27年ぶりの購入です。この本はヨーコという小学校5年生の女の子が所沢のおばあさまから魔法使いになるための手ほどきを受けて成長する物語です。今読んでみるとかつての印象とずいぶんちがいます。もちろん、私の読み方がちがっているということです。まず、読むこと自体がすごく心地いい。センテンス毎にくっきりと浮かんでくるものがある。自分の中に物語がひとつの構造を作っていくのがわかる。それは読みやすいとかわかりやすいとかいう表現では説明できない次元のものだと思う。私は児童文学や言語についての著者の考え方を前にハードカバーを買うときに別の雑誌(『翻訳の世界』日本翻訳家養成センター 1982 2月号)で読んでいるので余計にそのことを考えてしまいます。「すくなくともわたしは、児童文学を、ことばによってなにかの出来事をつたえるものだとは思っていない。わたしの考える児童文学は、ことばを子どもたちにつたえるために、なにかの出来事をもちいるものなのである。」今回、私が『魔法使いの伝記』を読んで強く感じた印象は、私の中で言葉がまさに再構成される営みであったように思えるのだ。こうして獲得される言葉は人をして対人関係という世界を広げる力となる。ネットで調べてみるとこの本が根強い人気を博していることがわかってきました。入手が難しいので図書館で借りた本をワープロで全文を打ち直した人までいたのには驚きました。ただごとではない本だと思う。
台風18号と前後して届いた本は他に2冊あります。宮下マキ『その咲きにあるもの』(河出書房新社 2009)と『AERA MOOK 姜流』(朝日新聞社 2009)です。『その咲きにあるもの』は乳がんの女性から撮影を依頼された写真家 宮下マキが撮ったフォト・ドキュメントです。『AERA MOOK 姜流』は夏目漱石を語り続ける姜尚中の関心事が収録されています。この2冊に私はすぐに答えの出ないことの現実の重みや意味を感じています。
今夜は久しぶりにブログを書く時間ができて音楽も聴くことができました。台風一過、秋本番はもうすぐですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です